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「夢の超特急」、走る!―新幹線を作った男たち (文春文庫)

 東海道新幹線は、世界に先駆けて実用化された、日本の誇る高速鉄道である。新幹線ができあがるまでについて取り上げた本は多くあるが、この本は、新幹線の技術開発そのものよりも、関わった人達が何を夢見て、どのように開発の可能性を取捨選択し、「新幹線」というものを作り上げたのかを克明に記したものである。
 島秀雄国鉄技師長をはじめ、それぞれの関係者が新幹線に携わるまでの経験など、その要素技術を作り出したり決断をする背景まで書かれているため、新幹線を支える技術は、単なる思いつきではなく、全てこれらの背景の上に立った必然であることが良くわかる。また、プロジェクトというものは立ち上がる時に、完成像ができあがっているわけではなく、おおよその開発の予測をつけ、後は走りながら考える。開業直前まで様々な問題を解決しながらその過程を知ることは胸躍るものである。技術論だけではなく、用地買収や工事現場から予算に関する苦労までの全てがこの本には盛り込まれている。
 時速210kmという高速営業運転は、当時は全く未知の世界であった。それを実現するためのポリシーは、意外にも思えるが、保守的なものである。
(本文より)
 新幹線自体が、それまでの世界の常識を破る空前の構想だっただけに、とくかく技術者や研究者たちは研究中あるいは開発中の最新の技術を使ってやろうと張切ったが、技師長の島はそれをいましめていった。
「何もかも新しい技術でやって、もし失敗したら大変なことになる。だから新しい技術、とくに新幹線のためだけに開発した技術を使ってはいけない。時速二百キロ程度なら、これまでに国鉄が開発した技術で充分に出来ると思うから、できるだけ今までに使って実績のある技術の組合せや改良でやりなさい」(p.277)

 逆に考えれば、すでにこれまでに充分なほどの研究が積み重ねられていて、初めて新幹線のようなものが実現できた、ということである。遙か先のゴールを常に意識しながら今の課題に取り組むことの重要性を痛感する。


目次
第1章 黎明
第2章 大きな賭け
第3章 零戦から新幹線へ
第4章 立ちはだかる難問
第5章 高速への挑戦
第6章 「夢の超特急」誕生

商品名
「夢の超特急」、走る!―新幹線を作った男たち (文春文庫)
価格
¥690
著者
碇 義朗
出版社
文藝春秋
発売日
2007-10
URL
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4167717484/kanshin-1-22/ref=nosim